こんにちは。
ガラスコーティング剤の独自ブランド(ゼウスクリア)を展開する日本ライティングの内藤です。
前回は滑水コーティングについて解説しましたが、今回は従来の親水コーティングについて解説したいと思います。
コーティングと言えば水をバチバチはじく撥水のイメージがあり、それとは真逆の親水コーティングは塗って意味あるの?と思われるかもしれません。
確かに市場の中でも親水コーティングはマイナーですが、撥水には見られない特有の防汚効果もあるので、ぜひ知っていただければと思います。
目次
親水コーティングとは、撥水コーティングとは逆の性質で「水によく馴染み、濡れやすい」コーティングのことを指します。以前に滑水コーティングの記事で、水の接触角についてお話ししたことがあります。
明確な定義はありませんが、一般的に水の接触角が30°未満のものを親水コーティングと呼ぶことが多いです。
親水コーティングが施工された車に水をかけると、水がベターッと濡れ広がってゆき、撥水コーティングとは全く異なる挙動を示します。この特有の性質により、様々なメリットが生まれてきます。
親水コーテインングには、
という3つの利点があります。
撥水コーティングでは水が玉のようになるので、そのまま水滴が蒸発した場合は雨の中に含まれるミネラル分が析出し、イオンデポジットとして表面に固着してしまいます。
しかし、親水コーティングの場合は水が表面に濡れ広がり徐々に流れ落ちてゆくため、水滴が表面に残らず、イオンデポジットが発生しにくくなります。
親水性能が高いコーティング剤では、少量の水でもベターッと水膜のように濡れ広がります。ちょうど、油膜を完全に取り除いた際のフロントガラスのようなイメージです。
中程度の親水性能のコーティング剤の場合は雨量が少ないと水滴が生じることがあり、水を濡れ広がらせるには一定以上の雨量が必要です。
「水が濡れ広がる」という特性はセルフクリーニングにも繋がります。
すなわち、表面に付着したチリや花粉などが濡れ広がってゆく水によって浮き上がり、徐々に水がひけていくにつれて汚れが流れ落ちるのです。
撥水は水滴が転がる勢いで汚れを洗い流していましたが、親水は浮き上がらせて徐々に流してくれるという点で、ベタついた汚れなどにも効果を発揮します。
水が濡れ広がるという性質はサイドミラーの視認性にもプラスに働きます。サイドミラーも水を弾いた方が良いのでは?と思う方は要注意です。
サイドミラーに水滴が付着した際、後ろが見えにくく怖い思いをしたことはないでしょうか。
これはミラーに映る車や人の姿が小さいため、雨粒程度の大きさの水滴でも見づらくなってしまうのです。
しかし、親水コーティングを塗っておけば水がミラーに濡れ広がり水滴は発生しませんので、視認性が確保されることになるのです。
一方で親水コーティングにも欠点はあります。それは、トップコートの寿命が判別できない点です。
撥水コーティングであれば水を弾かなくなってきたらトップコートの寿命が近いと分かりますが、親水コーティングは元から水に濡れる性質なので寿命が近いかは一見みただけでは分かりません。
注意深く水の濡広がり方を見て、メンテナンスの時期を見計らう必要がある点では、上級者向けかもしれません。
それでは、なぜ水が濡れ広がるという特性が生まれるのでしょうか。
ポイントは物質の「極性」という考え方です。極性とはプラスとマイナスの電荷の偏りのことです。
プラスやマイナスの電荷をもつものは、「極性がある」「極性が高い」と表現し、逆にプラスやマイナスの電荷をほとんど持たないものは「極性がない」「極性が低い」と表現します。
極性を考える上で欠かせないのが周期表です。
実は、周期表に並ぶ元素は、原則、右にいけばいくほど、上に行けば行くほどマイナスの電荷を持ちやすいのです(一番右の列は希ガスとよび、例外です)。
たとえば水分子はH2Oという化学式で書かれますが、水素(H)は左上にあるのでプラスの電荷を持ちやすく、酸素(O)は右上の方にあるのでマイナスの電荷を持ちやすいことが分かります。
従って、水分子は水素原子がプラスの電荷をもち、酸素原子がマイナスの電荷を持つので、極性が高いです。(もう少し詳しく知りたい方は、「電気陰性度」というキーワードで調べてみると良いでしょう)
この水分子を濡れ広がるようにするには、コーティング材料も極性が高い材料を使い、水とコーティングがプラスとマイナスで引き合うようにすれば良いのです。
それでは、極性が高いコーテインング材料とはどのようなものがあるでしょうか。
最もイメージしやすいのは、水(H2O)に似たヒドロキシ基(OH基)を多く持った材料です。
たとえば、シリカやガラスは多くのOHを持ち、水と引き合うので親水の性質を持ちます。他にはポリエーテルという構造も極性が高いです。
ポリエーテルは酸素原子(O)を持つポリマーで、前述の通り酸素はマイナスの電荷を帯びやすいので、極性が高く、すなわち親水の性質を持ちます。
あるいは、ポリビニルアルコール(洗濯糊の成分)や酢酸ビニルといったポリマーもOH基や酸素原子(O)を多く含むので親水性ですし、カチオン化デンプンというイオン化された構造を持つポリマーも使用されている例があるようです(特許4981914号)
これらの親水性物質を車体の表面に存在させることで親水性をだしていくことになるわけですが、商品形態は様々で、
が考えられます。
「①の簡易タイプ」は、親水ポリマーやシリカを水に分散させたシンプルな組成です。膜は硬化しないので寿命は短いですが、塗装を痛める心配もなく安心して使えます。
たとえば、とある製品の成分表示を見るとガラスエッセンス(おそらくシリカと推測されます)と水といった記載があり、これは簡易タイプに分類されます。
「②洗車タイプ」は洗車後に洗い流すと親水成分が表面に残り、親水性を発揮するお手軽製品です。通常のカーシャンプーに水溶性ポリマーが配合されており、リンスインシャンプーのようなイメージです。
代表的な製品の成分表示では、界面活性剤などの洗浄成分に加え、特殊変性シリコーンと記載があります。シリコーンという名前から撥水をイメージしがちですが、極性が高い構造を組み込んだ親水のシリコーンと考えられ、洗車後に親水性を付与するものと考えられます。
「③のガラス系タイプ」は、反応性の親水成分を空気中の水分と反応させて硬化させ、親水膜を作り出す形式の製品です。
たとえば、特許6440688ではポリエーテル構造を持たせたシラン化合物が記載されており、これは表面処理剤として使用できるようです。
「④の無機ガラスタイプ」は、コーティング剤の中にガラスの前駆体であるシリケートや無機ポリシラザンが配合されており、これが空気中の水分で加水分解することで文字通りの無機のガラスを形成するものです。
いろいろなタイプの親水コーティングを解説してきましたが、ここではどういった視点で商品を選べば良いか解説したいと思います。
まず、親水コーティング剤は①の簡易タイプや②の洗車タイプが多いです。
なぜかというと、親水コーティングは水に馴染みやすい性質なので雨に溶けやすく、長寿命の製品を想定しにくいためです。
従って、大抵のユーザは簡易コーティングや洗車タイプの親水コーティングをこまめに施工するのが良いでしょう。
親水コーティングが気になる方は、まずは簡易コーティングから始めて自分の車に親水コーティングが合っているか確かめてみるのが良いでしょう。
そして、もし親水コーティングをもっと長持ちさせたいとなれば無機ガラスコーティングを施工し、その上に簡易親水コーティングを定期的に施工する事で、下地の無機ガラスコーティングの消耗を防ぎながら運用するのも一つの手だと思います。
今回は親水コーティングについて説明しました。黒、赤、紺といった濃色車は、手入れを怠ると目に見えて汚れてしまうので日々の世話が大変です。
お持ちの自動車が濃色車で、撥水コーティングを施工したけど水垢汚れが目立ち悩まされている方は、方向性を変えて親水コーティングを施工してみるのもいいかもしれません。
また、ドアミラーに雨粒がついて後ろが見えずヒヤヒヤした経験のある方も、雨の時期の前に簡易コーティングを塗るだけで視認性が確保でき安心して運転できるようになります。